クリストとジャンヌ=クロードという、夫婦のアーティストをご存知ですか?
大都市の建造物や大自然を、布やプラスチックなどの素材を使って風景をガラッと変える壮大な作品で知られるアーティストです。そんな、クリストが2020年4月にパリのエトワール凱旋門を包むプロジェクト「l’Arc de Triomphe, Wrapped(Project for Paris, Place de l’Étoile-Charles de Gaulle)」を行うことを発表した。
2020年4月6日から19日のわずか14日間のみ展開されるプロジェクトは、凱旋門を管理するフランスの政府機関・フランス文化財センターと美術館のポンピドゥー・センターと共同で行われ、2万5000平米の銀色がかった青いポリプロピレン織物と7000メートルの赤いロープを使って凱旋門を包みこむ。
クリストは1935年生まれの現在83歳。ジャンヌ=クロードは2009年に亡くなっている。83歳のクリストの新しいプロジェクトが見られるなんて、楽しみでしかたがない。できれば、パリに行ってこの目で見たい。
クリストと、ジャンヌ=クロードのことが好きになったのは、「アムステルダム市立近代美術館」で、ふたりの「Running Fence」という作品のドキュメンタリー映像を見たことがきっかけでした。アーティストって「描く人」ってイメージがあったけど、ふたりの姿を見て、アーティストは「行動の人」に変わった。
「Running Fence」という作品は、カリフォルニアのソノマからボデガ湾という太平洋に面する所まナイロンの布でできたフェンスを建てていくというもの。その総距離は、なんと約40km。2050本の支柱を地面に埋めて、20万平方メートルもの布を縫い合わせる。
こんな壮大な作品ともなると、たくさんの役所や農村との交渉も必要になり、59もの牧場に土地使用の許可を取らなければいけない。ドキュメンタリー映像では、ふたりが一軒一軒、交渉する様子が映し出されていた。
資料をもって「お願いします」と言っても、「無理だな」と牧場のおじさんに言われ、「なんでですか?」と聞いてみると、「だって、お前らは地元の者じゃないだろ」と変えようのないことを突きつけられる。法的な手続きも必要になるため、裁判に立って市民に説明する場面もある。途中、おじさんに強く「無理だ、帰ってくれ」と言われたジャンヌ=クロードが泣きだす場面もある。
それでも、それでも、自分たちが見たい景色のために、一軒一軒、交渉を進めるふたり。少しづつ街や街の人が彼らに賛同を示して、プロジェクトを実現する。
計画から建設まで、4年もの月日をかけて完成させた非日常的な景色は、たった14日間の展示で幕を閉じた。自分たちが思い描いた景色を見たいがために、丁寧に情熱を積み重ねるふたりの姿を見て感動をした。
パリのエトワール凱旋門を包む新しいプロジェクトでも、たくさんの交渉をしているんだろうなあ。今はもしかしたら、信頼されるアーティストとして、以前よりも交渉はらくになっているかもしれない。その信頼は、過去の行動から生まれるのだろう。
読んでくれて、ありがとうございます。
動け、動け、動け。ぼくとあなた。