インタヴューの相手は、中村 亜矢子さん。ゾウが大好きで、ゾウの現状を知ってもらうために、ゾウのウンコで紙をつくっています。
新しいウンコに出会うたびに、「わぁ」ってなる中村さん。ウンコではじまり、ウンコでおわるインタヴューです。これを読めば、2019年、運がつくこと間違いないゾウ!?
中村 亜矢子1984年東京都生まれ。象のUNKO elephant paper代表。環境活動家。象糞紙作家。象の糞で紙を作りながら野生動物の保護活動を続けいる。
マスダ ヒロシ1987年埼玉県生まれ。The U 編集長。イラストレーター。1月中旬から原宿の「ビオ オジヤン カフェ」で個展やります。1年半海外を旅してた。
植木屋の仕事とのバランス
マスダ
おそらく、ウンコを紙にする活動以外にも、食っていくための活動もしているかと思うんですが、バランスについて教えてください。
中村
動物園を辞めたあとの1年間は、それまでの貯金や退職金でファームステイしたり、自分の興味のあることをやっていました。
今は植木屋をやりながら、ゾウのウンコで活動をしています。たまたま高校の同級生(友だち)のおじさんの植木屋の人手が足りなくて、ちょうど私がプラプラしているのを知っていた友だちが「こういう仕事好きでしょ?」って声かけてくれて。
ゾウのウンコの活動をはじめて半年後に植木屋で働きはじめました。貯金を食いつぶしたあたりで、ちょうど声をかけてもらえて(笑)。
生きていくためには、植木屋の仕事をいっぱい入れないといけないんですけど、ゾウのイベントやりますってなると、準備に時間がかかるのでそこのバランスですよね。
最初の一年は平日植木屋やって、土日イベントだったので、どこで準備するんだろうって感じで。イベントできますってなったら、無理してでもいれて、「ひとりブラック企業」みたいな感じになってて(笑)
マスダ
独立して、そういう人多いと思います。
中村
休みってなんだろうって。ただ年齢は重ねていくので、体力を落ちていくし。2年目になったときに、このままだと死んでしまうなあと思って、イベントの前日は休みもらうなど、休み方を考えるようになりましたね。
マスダ
休みのコントロールって大事ですよね。
中村
私自身がもしお金持ちだったら、無償でゾウの保護の活動をしていくと思います。でも、そんな金持ちではないので、お金がないと回していけない。回していけないってことは、この活動をやめるしかなくなっちゃう。
マスダ
目的としてのお金というより、手段としてのお金が必要ってことですね。
中村
そうです、そうです。なのでお金をいただきながらワークショップをしたりしていますが、それだけで生活費が賄えるかというと、まだきていない状況です。
もちろん、今、需要をつくるためにアーティストさんと組んでおしゃれな商品をつくろうとしています。ゾウも守るためにゾウのウンコペーパーを買おうというのだけじゃなくて、おもしろいから、かわいいから買ってもらえるようにって。買った後に、これが保護の一環になるんだって知ってもらえたらいいなあって。
マスダ
入り口を広げているんですね。
中村
ただ、「しっかり、目標を定めて」っていうのが苦手なんですよね。アフリカ人気質というか(笑)。「今がよければいいじゃん」って。
マスダ
「Pole pole(ゆっくり、行こうよ)」みたいな(笑)。
中村
今を一生懸命やれば未来につながるっしょ、みたいな(笑)。
ただ「どんな未来をつくりたいの」って言われると、ブアーってでかい話になっちゃうけど、人間と動物が共存できるような世界になればいいなあって。
他にも動物保護の団体がたくさんあって、別に私のチカラじゃなくてもいいんですけどね。
私に何ができる?
マスダ
それでも、自分がやりたいって思ったわけですよね。
中村
なんだろうなあ、なんでやっているかと言うと、、、ハチドリの物語、知ってます?
マスダ
うーん、知らないです。教えてください。
中村
「ハミングバード・ストーリー」って言って、いろんな動物がいる森に大火事が起こるんですよね。動物たちが一目散に逃げるんですけど、ハチドリだけが湖から水をすくって、大火事に一滴の雫を落とすことを繰り返すんです。
それを見ていた他の動物たちが、「なんのためにそんなことをするんだ」「そんなことをやったって意味ないじゃん」ってハチドリを笑うんですけど、ハチドリは「私は、自分ができることをやっているだけですよ」っていう話なんです。
マスダ
中村さんは、そんなの無理だってバカにして笑う側じゃなくて、自分のできることをやる側になりたいって思ったんですね。
中村
もちろん、ハチドリがそれをやったからって大火事を消せるわけじゃないですけど。それを見た森の動物みんなが消しにいったら、もしかしたら、消せたかもしれない。自分にはチカラがなくても、人間に助けを呼ぶことができるかもしれないって。
今、地球上で起きている環境破壊や動物が絶滅していく姿は、ハチドリの森の話とリンクしてて、じゃあ、私に何ができるって考えたときに、一つは、私はゾウのウンコで紙がつくれる。二つは、私はウンコ、ウンコ言われても大丈夫(笑)。
マスダ
(笑)ああ、ウンコって言われても平気な忍耐力が。
中村
小学生の男の子が、悪口のつもりで私のことを「ウンコって呼んじゃおう」って言っても、「いいよ、いいよ」って(笑)。
マスダ
「えっ、いいの?ウ、ウ、ウンコさん」って、驚いてさん付けになるでしょうね(笑)。
中村
前にお付き合いしてた人なんか、私の活動を知ってて付き合ったのに、「いやーオレの彼女はウンコかーと思うとちょっとねえ」って。
マスダ
ウンコそのものじゃないですけどね(笑)。
中村
あまりにも、私がウンコをアピールするもんだから(笑)。
マスダ
それで、前のパートナーは引いちゃったんですか?
中村
私は別にシークレットウンコじゃなかったわけですよ。最初からこの活動をしてますよって話をしてたのに、「何をおっしゃるんでしょう?」「一番大事なとこ理解してもらえないと私、無理ですー」ってなって(笑)。
マスダ
えっ、シークレットウンコじゃないのに(笑)?そこは、理解してもらえないとですよね。
中村
命かけてるとは思ってなかったみたいで。
マスダ
ぼくだったら、「最高じゃん」ってなりますけどね。
ウンコと仕事するには、忍耐力が必要なんですねー。
象牙の印鑑でゾウが殺されている
中村
そう、技術とハートの強さがあるので。今の私を最大限に生かすのは、今の活動なんじゃないかなあと思っていて。
去年の夏に「ゾウのウンコで紙をつくろう!夏休みの自由研究!」っていう、1時間紙作り、1時間ゾウについて勉強する、親子のワークショップをやったんです。
その中で「地球のために明日からできることを考えてみよう」というみんなで考える時間をつくったら、「便利な生活をあきらめる」って意見が子どもの話し合いから出てきたんですよ。
マスダ
へー、すごい。
中村
鳥肌が立つというか、泣いちゃいそうになって(笑)。別に便利な生活をあきらめなくてもいいんだけども、便利な生活の裏側に何があるんだろうっていうのを考えたんだろうなあって思うんです。便利の裏側にある地球への負担を考えて意見が出たのかなあって。
マスダ
子どもたちが自分のアタマで考えたのが、すごいことですね。
中村
明日からできることを自分ごととして考えるのが大事だなあって。そういう意見が出てくると、この活動やっていてよかったなあって。
「ウンコで紙作り面白そう!」って来てくれた親子さんに「ただ紙を作るだけかと思ったらゾウの現状も知れて、来てよかった」って言ってもらえるのがうれしいですね。
あとは、「うんこのアート展」で、ゾウのウンコの紙にアーティストさんに絵を描いてもらって、ゾウの現状と一緒に展示をしたんですけど、お客さんのひとりに肩を落としている人がいて。「どうしたんですか?」って声をかけたら、「じつはハンコ屋で働いてて、上司に象牙の印鑑をオススメするように言われてるんだけど、こんなにゾウが殺されているなんて知らなかったです、、、」って。
マスダ
へえ、オススメするように言われてるんだ。
中村
高いものを売りたいっていうのもあって。
マスダ
ああ、利益が出やすいんですね。
中村
たまたま、「ウンコのアート展」に来たらそういう情報を知ってくれたとか。微々たるものではあるんですけど、まったく興味のなかったことに知ってもらえるきっかけにはなってるのかなあと思っていて。
私がやっていなかったら、知らなかったのかなあっていう人もいて。草の根の活動ではあるんですけど、もしかしたら発言力のある一人に知ってもらえたら、いっきに広がる可能性もあるし。
私の活動が広がらなくてもいいって、言うのはいけないんでしょうけど(笑)。ゾウや野生動物の現状が広がれば。なんかね、欲があまりないんですよね。こういう活動をするのに、欲って大事だなあって最近思うんですけど。
ただ欲の果てに、こういうゾウの現状にもなってるって。
本当は、SNSとか得意じゃないんですよね(笑)。
マスダ
それは、わかります。「The U」っていう自由をつくることをテーマにしたウェブマガジンをつくって、「これを、読んで、読んで」って言うのもおこがましさがあって、かと言って読んでもらえないと、世界になんの変化もおきないわけで、こころの天秤がいつも揺れています。
でも、活動を広げていくためには、恥ずかしがらずにダイナミックにやらないとなあって言うのが、今のぼくの結論です。
中村
そうなんです。そうなんです(笑)。イヤだからSNSはやりませんって言ってたら、何も広がらないんで、やってます。
マスダ
ダサいこともやっていかなくちゃとは思いますね。友だちみんなに「このインタヴューを読んで」って言うことってダサいかもしれないんですけど、「おもしろいから読んで」って恥ずかしさのスイッチを切ってやるしかないのかなあって。
中村
そうなんですよねー。facebookでイベントのたびに招待を送るのもなんだかなあと思いながら、でも送るーって(笑)。
あと「活動家」っていうのをやってると、「すごいねー!」って言われるんですけど、自分のやりたいことをやってるだけで全くすごくないので、人がつくりあげていく自分と、自分の自信のなさのバランスのわるさもあったりとか(笑)。
マスダ
ああ、活動家という言葉のくすぐったさが。
中村
こんなのできる人間じゃないんだけどなあって思いながらも、それでも続けたいって思っちゃうんですよね。
象のUNKO elephant paper
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撮影協力/GALLERY KISSA