はじめてのインタヴューのお相手は、Paint Creator minami(ミナミ)さん。インタヴュー前、ミナミさんを紹介してくださった方からは、千葉市美術館の「1986年 激動の時代の芸術」で、壁画を描いたアーティストであり放浪画家、とだけ聞いていました。
ミナミさんの壁画を観に行くと、高さは天井に届くほど、横幅も10メートル近くあり、ど迫力。その大きなキャンパスに描かれた抽象的な絵からは、ぷつぷつと湧きあがるいのちを感じる。
「これを描いた人は、どんな方なんだろう?」「放浪画家ってどんな人?」と思いながら、インタヴューにのぞみました。話を聞くと、作品と同じくらいチカラづよい言葉と生き方に出合いました。
前編、後編に分けてお届します。
前編/「ただただ好きで描く」Paint Creator minami
設計事務所に勤める傍ら、福岡を拠点に放浪と創作を続ける。その時、その場所で表現したいことを平面・立体に関わらず自分の思うベストな方法で。https://paintcreator-minami.work
1987年埼玉県生まれ。The U 編集長。グラフィックデザイナー。イラストレーター。2017年より1年半世界中を旅する。旅中、いろんな国の道で似顔絵を描いていた。
目の前の人に喜んでもらった結果
マスダ
ニューヨークでも絵は描き続けていたんですか?
ミナミ
はい、その頃から「読書感想絵」というのを。友だちが1日に1冊、本を読んでレポートを書いていたので、わたしもマネして1日に1冊本を読んでみました。
マスダ
すごい!どれくらい書いたんですか?
ミナミ
それが、3日で辞めました。レポートって書き方がよくわからなくて。でも読んだ本の絵は描けると思って、わたしの場合は「読書感想絵」をはじめたんです。本は無限にも想像が出来て楽しいです。今では、もう107枚描いてます。100を超えると気持ちいいですよ。それと、京都はお寺だけでなく神社もたくさんあるので、神社の絵も描いていました。これも40枚くらい描いています。
マスダ
御朱印も押されていて、なんだかご利益がありそうですね。ふつうの紙にも御朱印押してくれるもんなんですか?
ミナミ
ありがたい事に皆さん描いて下さいました。東京にある豪徳寺では描いた絵をとても気に入ってくれて、御朱印帳の背表紙に採用してくれています。
マスダ
おお、それはうれしいハプニングだなあ。京都のあとは?
ミナミ
そのあとは、東京へ。「LOTUS(ロータス)」ってカフェ知ってますか?
マスダ
はい、表参道の。
ミナミ
友だちが教えてくれたので、「LOTUS」に行って、そこでも描いていたら「おもしろいことやってるじゃん、絵を描くなら東京でしょ、出ておいでよ」って、オーナーさんに言ってもらえて、「じゃあ行きます」って。
マスダ
あれ、京都と同じ展開。もう、さすがです。それにしても、さらっとよく決められますね。
ミナミ
もちろん、調べましたよ、どんなカフェかって。調べてみるとカフェブームの火付け役にもなった有名なお店で新しいカルチャーを作るって凄いパワーのある人だなあと思って。一緒に働いてみたいという気持ちもあって東京に来ました。25歳にして上京するとは思ってなかったですけど。まあ今回は、住まいは自分で探しましたけどね(笑)。
1年間ほどロータスでは絵も展示させてもらいながら働いていて、その流れからセゾンギャラリーでも個展もさせてもらいました。「カフェの絵を描いてるんです。もう100枚以上」と言ったら、「いいじゃん、ぜんぶ貼っちゃいなよ」ってギャラリーの方が言ってくれて。ほんとう、すべて巡り合わせです。ひとつでもなかったら、今の場所に辿りついていないと思います。
マスダ
出会ったひとりひとりに喜んでもらえているから、いい繋がりが生まれているんですね。その巡り合わせで「1968年 激動の時代の芸術」展の壁画を描くことにも。壁画は、今まで見せていただいた線画とは印象といいますか、タッチがちがって見えます。
ミナミ
うーん、話せば長くなるんですが、あの作品は、(1968年にオープンした)ゴーゴークラブ「MUGEN」のライト・ショーを2018年バージョンで再現したもので、藤本さん(ライティング・アート・プロデュース)に「エントランスのあった蝶を描いてほしい、あとはビアズリーの絵を参考にしてほしい」と本を渡されました。
「MUGEN」には「大人を踊らせないと意味がない」と言ったコンセプトがあって、私の好きな言葉にも「問うな、踊れ」というものがあります。頭デッカチになるなという意味ではあるんですが。ここではあえて「踊る」ことについての本質を考えてました。「踊る」ことは、ボディーランゲージの延長で、人間にとって根源的なもの。手拍子や足踏み、リズム、言葉とは違い、とても原始的でシンプルな伝達方法。
だから、人の髪型とか細かく描くよりも、人のカタチさえあればいいのかなと思って、あの絵に。それまでは細かく細かく描いていたんですが、描くにあたって調べたこと考えたこと感じた事をムギュっとひと塊にして弾けたら、ああなったという感じです。なので、今までの線画とはちがいますね。
マスダ
ああ、だから新しいのに、どこか懐かしさも感じる洞窟画のようにも見えたんですね。それと、無数に描かれた点々も印象的でした。ぼくも旅をして以降、「踊る」ということの身体性に惹きつけられています。
ミナミ
描いた点は細胞です。人間にどれくらい細胞があるか知ってますか?
マスダ
ええっとー、どれくらいだろう、2兆くらい?
ミナミ
っといっても、答えを忘れてしまったんですが(笑)。人間は蚊に刺されたて、それを掻いただけで、いくつもの細胞が死ぬんですが、それでも人間自身は生きている。凄く不思議だなあと思って。単体の寿命と、集合体で成り立つ1つの寿命も動きも全部バラバラなんです。でもそれで体ができて意志をもって動いている不思議。単体の集合体と集合体から成る単体の不思議。
マスダ
不思議でおもしろいです。細胞は人間の最小単位、根源的なものですしね。
恥かいてもいい、バカになろう
マスダ
今日、ミナミさんの話を聞いていて、すごいなあと思ったのは、新しい環境にさらっと飛び込めることなんですが、こわくはないんですか?
ミナミ
えっ、なにがこわいんですか?
マスダ
うーん、たとえば、ぼくが明日から北海道に行くことになったら、友だちもいないし、お金のことも心配で不安になります。
ミナミ
うーん、友だちとは一生会えないわけではないですし、SNSという便利なものがあって、ありがたいことにいつも見てくださる方がいてくれて。なので安心して飛んでってます。それに旅とも旅行とも違ってその環境の中に住む、生活できる機会って貴重だし、新しい環境にワクワクします。
マスダ
それでも、さらっと飛び込めるのはすごいことです。
ミナミ
あと友だちの言葉も影響しています。むかし、悩んでいたときに「やらない後悔より、やった後悔」という言葉をかけてもらって、今でもその言葉が背中を押してくれますね。すべてのことをきっかけと思っていて、なんとかなる、恥かいてもいい、バカになろうと、まず飛び込もうと思ってます。
マスダ
ああ、「バカにせず、バカになる」ってのは、このウェブマガジンのテーマのひとつでもあります。「恥かいてもいい、バカになろう」っていうのは、チャレンジするときは、ぜったい大事ですよね。これからは、どんな表現をしていきたいですか?
ミナミ
さいきん、わたしの作品で、五感のうち、どれくらいに刺激を与えることができるんだろうと思ってて、絵は言語という壁は乗り越えられると思うのですが、目が見えないと、、、というのが第1前提にあることに気づいて。絵も触って感じれるのですが、立体作品にも興味があって、現在は福井で陶芸の作品もつくりはじめています。
マスダ
おー、「Paint Creator minami」の枠からはみ出していますね。
ミナミ
ペイントクリエイター、ペイントという描くことが中心にはありますが、それを軸にしながらクリエイト、そこに留まらずいろんなことをやっていきたいなあと思ってます。
福岡で個展のお知らせ
minami 2nd EXHIBITION
『点と線は流点する』〜ニューヨークから千葉、ヤツオまで〜
2018年11月21日(水)〜11月26日(月)
THRUSH CAFE 福岡市中央区平尾3-5-10ビュートリアム2F
https://paintcreator-minami.work