「絶賛以外は真にうけないほうがいいよ」。ほぼ日の塾に通っていたときに、ほぼ日の永田さんに言ってもらったことばだ。
ほぼ日の塾の課題が力不足でうまく行かず、すべての課題がおわったあとに永田さんに相談に行くと、「今はかんたんに「いいね」ができるから、50点、60点のものにも、たとえ読んでいなくても「いいね」がされる。だから、ほんとうに絶賛されること以外は真にうけないほうがいいよ」永田さんは言った。
すぐに調子に乗るタイプのぼくは、このことばを重しとして大切にしていた。いや、大切にしているというよりも、消化できず体内に残っているような感覚のほうが近い。
あいかわらず、「書く」ということには「いいね」はついても「絶賛」は受けていない。でも「描く」ということには「絶賛」に近いことを受けた。人生ではじめて絵を買ってもらえたのだ。
7月21日、日曜日の夜7時、ぼくが絵を展示しているカフェにいると、8人ほどの外国人のお客さんがぞろぞろと店内に入ってきた。どうやらテイクアウトをするようで、メニューを頼んだあと、ぼくの絵をおもしろがって観てくれていた。
椅子に座っていたぼくは、店長と「なんだか、いっきにニューヨークの展示会場になりましたね」と笑っていた。すると、ひとりの女性が絵を気に入ってくれたようで、「これいくら?」と聞いてきた。
値段を伝えると、0.1秒の間もあけずに「買うわ」と言った。「でも、絵の箱は今ないよ」と言うと、「大丈夫、すぐそこに車があるから」と。あまりの即答に、カフェの店員さんが、0ひとつ間違えてないよねと言った。
「額の裏側にサインして」と言うので、へたくそなサインをした。絵を買ってくれたことがうれしくて、ぼくは、だれかもわからない外国の女性といっしょに写真を撮ってもらった。
絵をわきに抱えて「Thank you Hiroshi」と言って店を出て行った女性。晴れやかな人だ。8人のなかのひとりがすこし残って、「あの人すごい人なんだよ。書くものある?名前書いておくから、お店を出たら見てね」と言って紙になにかを書いてくれた。
お店を去ったあとに、その紙を見てみると、そこには「SIA」と書いてあった。「エス・アイ・エー?、えっSIA!?」。ぼくの絵を買ってくれたのは、『Chandelier』を歌う、Siaだったのだ。カフェの店員さんといっしょに大興奮。Siaは、フジロックに向けて来日していた。
ぼくは調子にのった。最高のアーティストが絵を評価してくれたのだから、しかたがない。確実に面長な顔がさらに大きくなったと思う。
それから何日かたった日、永田さんが糸井さんのことばを編集した、ほぼ日の本『他人だったのに。』を読んでいた。そこには、こんなことが書いてあった。
「だれにほめられたいかで、限界が決まる。だれにほめられているかで、可能性が決まる。ほめられることを忘れられるのが、なにより。」
そうだった、ぼくはほめられるために、動いているのではなかった。自分がやりたくて、やっている。まだふわふわしているが、すこしだけ、酔いが覚めた。酔って、覚めての繰り返しですね。
今日も読んでくれてありがとうございます。
展示は8月末までやってますので、よかったら。