インタヴューの相手は、ヘアデザイナーの上村 奈央(NAO)さん。自分のことを「環境に影響されやすい、単純な人間」と話すNAOさん。だからこそ、常に厳しい環境に身を転がしてきた。そして、次のチャレンジは、ニューヨーク。
ヘアデザイナーへの道のり、居心地のいい今の場所を離れてなぜニューヨークへ行くのか、聞きました。
上村 奈央1984年東京都生まれ。1993年長崎県生まれ。ヘアデザイナー。東京にあるサロンに勤務後、2019年よりNYへ。現在フリーランスで活動中。
マスダ ヒロシ1987年埼玉県生まれ。The U 編集長。イラストレーター。1月15日から原宿の「ビオ オジヤン カフェ」で個展やってます。1年半海外を旅してた。
言葉以上に大切なものがある
マスダ
いろんなお客さんがいたと思うんですけど、印象的なお客さんとのエピソードってありますか?言える範囲で。
NAO
うーん、日本に来ている中国の方って多いじゃないですか。求めるものが爆買いのモノからサービスに変わってきててて、美容室にもよくいらっしゃるんですよ。
私が担当した人は香港の方で「ショートにしたいんだけど、やったことないから似合うかわからないんだよね。あなたのセンスで切ってほしい」って任せてもらえたら、感動してくれて「また来るね」って言ってもらえて。
マスダ
それは、うれしいですね。
NAO
外国の方なのでまた来てくれるか、わからなかったんですけど、3ヶ月後に妹さんを連れてひょいっとまた来てくれて。
マスダ
すごい。
NAO
「こういう風にしたいんだけど、気に入ったから、あなたのセンスに任せる」って言ってもらえて、うれしかったですね。言葉以上に大切なものがあるなあって。そういのもあって、海外への意識が高まったんです。国境を越えられるかもって。
このままでいいのかな?
マスダ
なるほど、これから海外に行くんですよね。どんな気持ちで?
NAO
やっぱり、海外へ一歩踏み出したいって気持ちがあって。今の場所も働きやすくて、好きで。もうすぐで6年になるんですけど、長くいると居心地もよくなるじゃないですか。そのときに、「このままでいいのかな?」って思って。むかしは、「海外で仕事できる人になりたい」って思ってたよなって。社会人で日常を必死に生きていると、むかし思っていたこと忘れていくじゃないですか。
マスダ
うん、「忙しいこと」が何かをしない一番の言い訳になりますからねえ。
NAO
それこそ、言い訳してたなって。やっぱり、やりたいことをやってみたほうがいいなあって。5年後に「やっぱり、行っておけばよかったって」思うだろうな。そういう後悔はしたくない。じゃあ、行こうって。
思い立ったら、すぐ行動なので、そこからニューヨークの学校のことを調べて。英語もぜんぜん喋れないんですけど、日本人の少ない学校を選びました。
マスダ
ああ、行けば英語もなんとかなるだろうって。
NAO
追い込まれないとダメなんですよね。
マスダ
それは脳の働きとしてもそうですよ。生きていくことに必要なこと、それを憶えていないと生きられないことは、脳は記憶できるようになってるんですって。
NAO
そうなんですね。みんながびっくりするくらいの英語力なので、「その英語力でよく行くなあ」って驚かれます。「ある程度喋れるようになってから行ったほうがいいんじゃない?」って言ってくれる人もいるんですけど、それだと何年経っても行けないなと思って。「行きます」って。行かないとはじまらないと思って。
マスダ
「バカになれ」、「元気があればなんでもできる」ってアントニオ猪木さんが言ってますけど。人はバカで元気があるときにしか、チャレンジできませんからね。行きたいと思った今、行ったほうがいいと、ぼくは思います。
学校はどれくらいの期間なんですか?
NAO
学校は2ヶ月なんですけど、VISAの関係で短期で日本とアメリカを行き来する感じですね。
厳しい環境のほうがやる気になれる
マスダ
ニューヨークおもしろかったですよ。道端で似顔絵描いてんですけど、トランプの絵を描いてたら、アフリカンアメリカンに「F◯◯K」って言われたり(笑)。となりでレコードを売ってたマイケルさんは「俺と娘の似顔絵描いてくれ」って10ドルくれたり。レコードぜんぜん売れてないのに(笑)。
NAO
アーティストに対する価値ってアメリカのほうが高いですよね。個性を評価してくれるというか。日本は「みんなと同じが落ち着く」っていう文化があると思ってて、それがちょっと息苦しくて。それもあってニューヨークに行ってみたいんですよね。なんか、日本人みんな、もっと個性的でお洒落になったらいいなって思ってて。
マスダ
日本ってお洒落じゃないんですか?
NAO
お洒落って言われてるかもしれないけど、綺麗であっても個性的ではないですよね。尖ったファッションしている人が腫れ物扱いされるんじゃなくて、愛される世界になったらいいなあって。音楽家でも美容師でもアーティストがもっと評価されたら、いいなあって。
マスダ
日本で活躍しているアーティストの方が、ニューヨークに行って叩きのめされたって話を聞きました。ニューヨークはアーティストひとりひとりに対する全体的な評価は高いかもしれないですけど、たくさんいるからこそ、レベルも高くって。
NAO
そうですよね。そういう環境のほうが、やる気になれそうだなあ。高みを目指してる人と一緒に働けたら、自分はもっとがんばれるし、もっと伸びるなあって。
マスダ
いいですね。NAOさんは、無意識かもしれないですけど、環境に左右されやすい人間だからこそ、自分の回りの環境を大事にしてますよね。しかも厳しいほうへ(笑)。
NAO
たしかにそうですね、影響されやすい単純な人間なんで(笑)。
そこに行かないとわからないことがあるんだろうなって。やってみないと、いいかわるいかもわからないので、行って納得したいです。
マスダ
ぼくも、同じです。最近ビジネスデザイナーの濱口秀司さんが「何か始める時は『挑戦してみよう』と『失敗してもいい』は同じ回数だけ口に出す。何が動き出したら、『挑戦してみよう』は『失敗してもいい』より多めに口に出す。」ってツイッターに書いてて、すごくいいなあって。
失敗してもいいいってはじめても、はじめたら逃げ道を減らしていくんだって。
NAO
いい言葉ですね。今のタイミングでなるほど、って思いますね。メモとっていいですか?
マスダ
はい。濱口秀司さんの言葉です。ツイッターでも、すごい本質的な言葉を書いているので、ぜひフォローしてください。
最後に、NAOさんの夢を聞かせてください。
NAO
日本とニューヨークで有名になること。二拠点で活躍できる美容師になることです。海外でも日本人は活躍できるってことを見せたいですね。技術も、人としても成長したいです。今はそれが一番の目標です。
それと、日本でさらにお洒落をたのしむ人が増えたらいたらいいなあって思いますね。髪は、ただ短くすればいいと思っていた人が「カットしたら、こんなによくなるんだ」って言ってくれることもあって。もっとヘアスタイルをたのしむ人を増やしたい。
マスダ
そもそも、人間ってなんで髪を切るんだろう?
思ったのが、今の日本ってただ食べていくことはできると思うんですよ。でも、みんながしたいのって、イキイキ働いて食べていくことなんじゃないかなあって。髪を切ることって、それに近いと思いました。自分でも髪を切れるんだけど、イキイキ暮らすためにお金を払って、髪を切るんじゃないかなあって。
NAO
人間って、どこかによく見られたいって気持ちがあるじゃないですか。少しでもかっこよく見られたいとか。少しでもかわいく見られたいとか。洋服以上に髪型がステキだと印象ってよくなるんです。人間ってパッと顔を見るじゃないですか。髪の役割って、顔の額縁です。
マスダ
額縁って、おもしろいですね。
NAO
たとえば、Tシャツ、ジーパンでも髪型がかっこよければ、清潔感があって、かっこよくなるし。ヘアスタイルの価値が高まるといいし、その価値観が広まっていくといい。それを提供できる美容師、その感覚・感動を与えられる美容師になりたいです。
(NAOさんとの対談はこちらでおしまいです。お読みいただき、ありがとうございました。いただいた感想は、1月20日に日本を発つNAOさんにお届けします。ニューヨークへ行ったあとも、NAOさんにはコラムで「The U」に登場していただきます)
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